地団研専報,no.43, 1-4. (1995,7)

兵庫県南部地震における災害の第四紀学的要因

川辺孝幸



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はじめに

 1995年1月17日午前5時46分に発生した兵庫県南部地震は,淡路島〜六甲山地南縁〜東縁の都市に大きな被害をもたらした.淡路島〜六甲山地と大阪堆積盆地との境界部には六甲断層系(Huzita, 1961)とよばれる断層系が発達しているが,今回の地震は,その中の一つの断層が地下で活動したためにもたらされたと考えられる.
 本報告では,微地形と被害状況との関係,構造物の建築年代と被害との関係を示す図版を示し,第四紀地質と被害との関係について考察する.

兵庫県南部地震による災害の帯状配列

 兵庫県南部地震による被害地域は,盆地と山地との境界に平行して帯状に発達している.この帯状配列が,直接的には,地下に伏在すると考えられる断層の運動によるものか,あるいは,地下深部あるいは地表付近の地質の違いを反映して,地域ごとに地震動が異なっていたためであるか,という2つの見解がある.
 筆者は,今回の地震による災害の帯状配列は,堆積盆地の縁辺部,とくに堆積盆地前縁,という地質学的位置そのもののもつ必然性であると考えている(川辺,1995;川辺ほか,1995).すなわち,堆積盆地の縁辺部には,堆積盆地の発生期からの堆積盆地をつくり,堆積盆地の発達とともに運動してきた断層が存在していること,同時に,堆積盆地の最大沈降部と後背山地の隆起という地形的な対立の場であることから,堆積相が,扇状地から内湾性の海成層までが,両者の境界部にそって,ごく狭い範囲におさまって分布しているという特徴を持っている.したがって,帯状配列の原因を,どちらか一方に限定することはできないだけでなく,そもそも片方だけでは,その存在自体が成り立たないのである.
 とはいっても,災害の帯状配列の中を詳細にみると,けっして一様に被害の集中域が分布しているのではなく,明らかに,いくつかのだんご状の集中域が,比較的被害の少ない中に点在していることがわかる.

被害分布と微地形との関係

 被害分布と地形との関係を示したのが,図版1である.図の範囲は,尼崎市から神戸市灘区の範囲で,今回の被災集中域の東半分の範囲である.
 この図は,建設省国土地理院発行の数値地図(50mメッシュ)『宝塚』および『西宮』をもとに,標高100mまでは 0.5m間隔で,標高100m〜100mまでを1m間隔の等高線で表現した地図に,航空写真倒壊家屋および瓦の落下被害の状況を判読した,国際航業発行の被災地図(国際航業,1995)のデータを重ねたものである.
 この図からは,被害の集中域が天井川をなす河川の自然堤防上に集中していることがわかる.また,河川と河川の間,すなわち後背湿地に相当する場所では,むしろ空中写真で判読されるような被害は少ない.
 一方,第1図は,陸軍陸地測量部明治18年作成の2万分の1仮製地形図と,被害状況とを重ねて表示した図である.この図からは,被害の分布が,自然堤防のほか,海岸砂洲に相当する部分にも被害が集中していること,そのなかでも,明治以来の集落の分布域に集中していることがわかる.すなわち,被害は,地形的には自然堤防や海岸砂洲などの粗粒堆積物からなる微高地上に卓越していること,同時にそれは古くからの集落の分布域に相当していることがわかる.

都市の発達状況と被害分布

 各作成年代の地形図に表現された構造物の推移と被害分布との関連性をみるために作成したのが,図版2である.今回の被害地域の東縁付近の西宮市北部〜宝塚市南部の範囲で,図の西半分は,大阪層群および段丘堆積層からなる丘陵部で,東半分が,武庫川の沖積低地である.図の上から1/3付近には,西側から流れる仁川の自然堤防が発達している.  この図版は,各年代に発行された地形図ごとに彩色し,新しい調査年代の地形図を下にして,順次,古い調査年代の地形図を上に重ねていって作成したものである.各年代の地形図は,イメージスキャナで白黒2値画像として読み取り,図形描画ソフト上で彩色して重ねあわせた.
 年代を追って構造物は増加するが,新しい年代の地形図ほど下に重ねてあるので,図で見えている色の構造物は,その色の地形図が発行される一つ前の地形図からその地形図が発行されるまでの調査年代に建築されたものである.
 この図版からは,被害の分布が東側の沖積低地に集中していること,および,構造物の建築年代が 1971年以前の地域に集中しており,それ以降の地域にはほどんど分布していないことがわかる.これは,被害の程度が,1974年改正・1975年施行の建築基準法による構造物の強度の違いを反映していると推定できる.したがって,神戸市地域のような被害の密集域で,被害の原因を究明するには,このような年代の差による構造物の強度の違いを差し引いて検討する必要がある.

おわりに

 本論文では,空中写真をもとに作成された被災分布をもとに,議論をすすめた.空中写真判読では,瓦の落下,倒壊構造物といった,おもに強振動が直接構造物におよんで被災した状況のものしか表現されていない.
 本論文では被害の比較的少ない地域として表現された後背湿地や海岸線沿いの,”軟弱地盤”の地域では,実際には,液状化による不等沈下などで,倒壊には至らなかったものの,建物自体が1°〜数°傾斜するといった深刻な被害を受けている.直下型地震の場合には,このような地下地質=表層付近の堆積環境の違いによって,被害の性質が異なっている.このように,”軟弱地盤”の災害を除外するかたちとなったが,今後,総合的に表層地質と被災状況との関連性について検討をすすめる必要がある.

文 献

Huzita K. (1962) Tectonic developenemt of the Median Zone Setouchi of Southwest Japan, since the Miocene, with special reference to the charaqcteristic structure of Central Kinki Area. Jour Geosci Osaka City Univ., 6, 103-144.
川辺孝幸 (1995) 1995年兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災の地質学的背景.地質学会特別ポスターセッション予稿集, p.10.
川辺孝幸・藤田至則・山岸猪久馬(1995)島弧変動からみた地震発生の要因―マグマによる地震発生の要因に関する試論―.地団研専報,no.43, 5-34.