青森県八甲田連峰における植生調査


高橋大介






The Vegetational Survey on Mt. Hakkoda


Daisuke Takahashi



1995










目次


1     はじめに


2     八甲田山(大岳)の植生
2・1   植生
      表1〜7 大岳における植生
      図1  大岳の植生区分
2・2   考察
      考察1 森林限界における環境の違い
      考察2 硫気荒原の植生
      考察3 湿原・雪田の特徴
      考察4 アオモリトドマツの変形


3     草原の植生調査
3・1   最小面積の測定
3・1・1 測定方法
3・1・2 結果
      表8  最小面積における出現種
      図2  種数と面積
3・2   コドラート法による植生調査
3・2・1 調査方法
3・2・2 植生
      表9  コドラート法による植生調査(1)
      表10 コドラート法による植生調査(2)
      表11 各植物の中央値
3・3   帯状トランセクト法による植生調査
3・3・1 調査方法
3・3・2 植生
      表12 帯状トランセクト法による各植物の優占度
      図3 帯状トランセクト法による各植物の優占度
      図4 帯状トランセクト法による種数の変化
      図5 帯状トランセクト法による植生高の変化
      図6 帯状トランセクト法による4種の草丈
3・4   考察
      考察5 マント群落の意味と役割


4     森林(ブナ林)の植生調査
4・1   調査方法
4・2   植生
      図7 ブナ林における樹高と胸高直径の関係
      図8 胸高直径ごとの本数の変化
      植生調査表
      図9  ブナ林の構造(樹冠図および垂直断面図)
4・3   考察
      考察6 ブナの二次林はどうやってできたか


5     おわりに


6     植物目録


7     文献






1 はじめに 〜調査地概要〜


 本調査地の八甲田山周辺は、青森県中部に位置し、十和田八幡平国立公園内にあたる。八甲田山は、数多くの連峰を総称したもので、広大な地域にわたっている。大岳(標高1584m)を主峰に、標高1200m以上の山岳が10峰ほどあり、それら山々の尾根と湿原の様子から八甲田と名付けられたといわれる。
 調査地である大岳周辺は、八甲田・八幡平・栗駒・蔵王・磐梯などの火山を含む脊梁火山列にあたる。そして八甲田火山は、複数の成層火山体と溶岩円頂丘からなり、溶岩は主にカンラン石・輝石安山岩からなる。また、大岳西側山腹地域は、いちじるしい硫気作用とそれによる変質帯があり、酸ヵ湯周辺はそれに該当すると言える。また一方、地形的に大岳の東北部の断層崖と湖成堆積物を伴う低地の田代平は、軽石流で生じたカルデラのなごりと考えられている。
 また、大岳ではブナ林からアオモリトドマツ林、草本を主とする湿原植物、高山帯では、低化した針葉樹と高山植物を見ることができる。ブナ林は大岳だけでなく、針葉樹を含めていろいろな植物の群落地帯が、八甲田にあるといえる。それは火山性の山岳地帯だから特徴的な植物とその植生を目のあたりにできる面を持っているのである。


2 八甲田山(大岳)の植生


 大岳は、富士山のようなほぼ円錐形をしており、八甲田山の中で最も高い。本調査では、標高約900mから1500mほどまで歩道にそって植生の観察を行った。


 2・1 植生


 大岳の植生について、その地点で見られた特徴的な植物と植生、および環境などを観察し、以下のとおりまとめた。


 調査地     : 八甲田山 大岳 (青森県)
 日時      : 平成7年7月20日(木)
 天候      : 曇り時々雨
 植生(調査内容): 別紙 表1〜7
 気象資料   酸ヶ湯(標高900m)
  年平均気温     5.3℃
  平均気温(7月) 17.9℃
  平均気温(1月) −8.2℃
  年降水量     2580mm






2・2 考察


 考察1 森林限界における環境の違い
 森林限界は、その厳しい環境によってある程度大型の木本の進出できる、または生活できる限界(の高度)であるといえる。一般にここで厳しい環境とは特に低い気温と成長に適さない土壌があげられる。また、高山の山頂付近は傾斜が大きく、崩壊斜面の性質を持ち、植物体をその場所に維持しにくいことが考えられる。
 今回の調査において森林限界は、南側では約1470m、北側では約1500mであった。これより、北側の方が進出しやすかったことをしめしている。この差についてここで気温について考えてみると、南側のほうがむしろ日射量などによって暖かく、植物は生育しやすいのではないかといえる。よってここに生じた差は気温以外の要因によるものと考えられる。
 他に考えられることは雪だろう。この地域は積雪も多く、山頂付近は風が強く、冬に北風に飛ばされた雪は南側に積もることになる。そして、気温が低いので南側と言ってもなかなか雪は消えない。実際に雪田として雪が残る傾向の部分がある。よって、積雪が植物の成長・繁殖を拒み、森林限界の南北差を生じさせたのは雪であるという推論ができる   。
 さらに、概して北風が強い場合、さらに森林を広げる元となる種子が風に飛ばされる性質を持っている場合、種子は北側では北風に乗って南の山頂側に移動でき、南側では風に乗るとさらに南のふもとの方に移動して山頂から離れることになる。種子と風の関係も南北差を生じさせることができうるが、種子ができる時期に北風がふいていること、種子が風に飛ばされやすいことなどの条件が前提となる。
 以上のさまざまな環境の因子が組あわさって植物の繁殖を阻害・進行させて森林限界を生じさせたと考えられる。


 考察2 硫気荒原の特徴
 硫気荒原は、山岳地で硫化水素など硫黄を含む火山性のガスが、地表面に継続的(または一時的)に噴出する場所で、局所的に異なる植生などを示す場所と言える。
 硫気荒原の多くは、岩石がむき出しになっていて表土があまりなく、その岩石は白色〜黄色に硫黄によって変色している。周囲にかけて刺激臭があり、ガスが噴出していることがわかる。
 植生は、今回見られたものを例にあげると、初めの硫気荒原(標高920m)では、まったく植物が見られない地点(ガスの噴出口と思われる地点)を中心に、ムツノガリヨシ、その外側にオオイタドリが見られ、それぞれの群落が他の植物をほとんど含まず別れて見られる。(ゾーネーション)
 二つ目の硫気荒原(標高1200m)では、中心からイオウゴケ→コメススキ→ムツノガリヨシ→オオイタドリと前のと同様の独特の群落構造を示している。一時的なガスの噴出による硫気荒原もみられ(標高970m)、ダケカンバ林の中にぽっかり穴のあいたようにダケカンバやチシマザサが枯れている。そして、そこには周囲のダケカンバ林にあまり見られないオオイタドリなどがはえている。ここで今後、ガスが継続的に噴出しなければ、周囲のダケカンバ林から種子が風で飛ばされ、その荒原地で発芽・成長し、同じ太さ(年齢)の木が見られる林(一斉林)になると考えられる。そして、ダケカンバが十分成長した時には、オオイタドリは、硫気荒原であった時のようには見られなくなるとも予想される。
 以上のように、硫気荒原ではオオイタドリのように硫黄や劣悪な環境に強い植物が卓越した群落を形成し、硫黄に強い植物のそれぞれが帯状に別れて群落を構成している。また、ガスの噴出がなくなった時、それらの植物が表土となり得て、他の植物が侵入して植生はまったく異なる姿(硫気荒原地だった場所の外側とほぼ同様の植生)を示すと予想される。
(文献によると次のことが補足できる。硫気荒原の土壌が白っぽいのは、石英などケイ酸量が80%を占め、有色鉱物が少ないからだという。また、噴出するガスの大部分は硫化水素で、その土壌は酸性を示す。そのため無機養分が洗脱されて高山土壌と類似するので高山植物が低地でも定着できる。)


 考察3 湿原・雪田の特徴
 湿原(高層湿原)ができるきっかけは、その地域の低い気温であると言える。低い気温のため植物の死骸は黒色の泥炭となり堆積する。泥炭層は水はけが悪く水がたまり、その場所に湿原が形成される。泥炭層の形成は1年に1mmほどだという。ゆっくり形成された泥炭層の間には、白っぽく薄い火山灰によるシルト層が含まれており、中には十和田火山による火山灰も含まれる。ある場所では泥炭とシルト層の互層が見られた。このような層理の形成が水を蓄えたといえる。高層湿原はその泥炭層の厚さにより地下水に頼らず、雨水によるものという区分であるが、大岳では豊富に湧き水がでていて、その周りに湿原が形成されているのがみられた。
 高層湿原の植生状況は小型の種が多いように思われる。(具体的種名などは表1〜7または植物目録を参照)そして、ロゼット型に近い葉の構造を持ち、長い花茎を伸ばしてきれいな花を咲かせるものも比較的多い。また、少し低地に降りて水の多い場所では、水生の植物やコケの仲間が多い。
 今回特に水がたまっていて池・沼の状態に近い「池塘」がみられた。池塘はだいたい直径2mぐらいのものから形や大きさはさまざまで、湿原の中に点々と存在している。池塘の周囲にはミツガシワなどがみられ、地形的に高まりをつくっている。この部分は周りよりも泥炭層などの堆積作用が活発なようである。
 この高まりについて、おもしろいことは、なだらかな斜面上では、池塘の山頂側では高まりは低く、ふもと側では高まりは特に高くなって平坦な面上では出っ張ってみえる。これは、山頂側の方が雨水などの流れが生じた場合に堆積物が浸食・運搬されやすく、池塘の下部(ふもと側)に堆積するためかと考える。
 湿原に類似した植生を示すものに雪田がある。雪田はある程度標高の高い場所で、小さな谷間など雪のたまりやすく、溶けにくい場所に多い。雪に被われ、土壌は湿原に近くなり、少し急な斜面ながら高層湿原の植物がある。雪に被われる期間が長いためこの部分には短い夏に繁殖しようとする(繁殖できる)植物が多いのだろう。


  考察4 アオモリトドマツの変形
 アオモリドドマツの幹が曲がったものがみられるのは、雪の圧力によるものと考えられる。アオモリトドマツの幹は、山の斜面下の方向に曲がっているものが多いのではないだろうか。また、強風による影響も考えられる。
 強風による影響を考えると、山頂付近はほぼ常に風が強く、低温で乾燥した風は植物にとって水分を奪い取るものとなり、成長を妨げる。(しかし、高山の植物は表面が丈夫で低地の植物と比べて水分を奪われにくい構造をしているかもしれない。)
 また、強風は雨や雪、時には砂などを含み摩擦力の大きい風であり、植物体をいためるものであると考えられる。そこで高山の植物は強風に抵抗する姿では存在しないし(存在できず)、風の影響をやわらげる姿、つまり変形していると思われる。
 さらに、地面の表層が重力に従って下側に動く現象(クリープ現象)により、滑って傾いた木が成長し、上に伸びた結果曲がった形態を示すとも考えられる。これは、一般の山林のスギ林などでも見られる。
 以上のように、アオモリトドマツの変形した部分は、何らかの外力を受けて変形したと言える。逆に、正常な部分が見分けられればその部分は、外力を受けていない所(例えば積もった雪の触れない部分)と言える。


3 草原の植生調査


 草原は、低温や水分の不足または多すぎるために樹木が育ちにくい環境にあるとされる。そして、群落の移り変わりにも草原は現われる。また、放牧のため人為的につくられた草原も少なくないと考えられる。しかし、そのような草原は、長い間放っておかれれると自然に安定した草原より早くその植生は、変遷してしまうだろう。
 そのような草原独特の植生を、森林への移り変わりを含めて以下の通り調査した。


3・1 最小面積の測定


 草原の植生調査を行うにあたり、初めにその調査地の最小面積を求める。最小面積は、簡単に言うと調査地内の種の構成を誤差なく、かつ効率よく調査できる面積区域の限界といえると思う。そして、実際に調査するときは、その最小面積より大きな面積を調査区域とすればよい。


3・1・1 測定方法


 最小面積の測定は、初めに調査地の任意の一点をとることに始まる。その点に杭をうち、そこから二方向にメジャーでラインをとる。二つのラインの内角は直角にしなければならない。そこで、もうひとつのメジャーで三角比(3:4:5など)を利用し、直角にする。
 そして、コドラート面積増大法により原点(杭の位置)から特定面積ごとの種数を調査する。


3・1・2 結果


 表8・図2で示される結果となり、近似値として便宜上最小面積は1m×1mである。


3・2 コドラ−ト法による植生調査


 最小面積が求められたならば、コドラート法を用いて植生調査の作業に移る。本調査では、シバ草原の植生調査を行った。


3・2・1 調査方法

 調査地内で任意の場所を調査区域(方形区)とする。面積曲線からわかった最小面積以上の方形区に調査地を区切る。一般にその方形区の大きさは、ほぼ1m×1mとしてよい。ここでも調査区域は、方形区である以上それぞれの角が直角で、正確な面積であるか注意しなければならない。
 決まった方形区内に、どのような植物が生育しているか調べる。似たような植物や、見落としやすい植物もあるので注意する。方形区内の植生高・植比率と、それぞれの植物ごとに優占度・群度・草丈を測定し、記録する。なお、優占度とは、その植物の植被面積がどれほど調査面積を占めているかという度合である。6段階で示し、割合が75%以上を「5」、50〜75%を「4」、25〜50%を「3」、10〜25%を「2」、1〜10%を「1」、それ以下を「+」とする。また群度は、その種がどのように集まっているか(群をなしているか)を5段階(「1」から「5」)で示す。そして、群度が1よりも小さいと思われる場合、優占度 と重複させ、「+」と記録する。
 このように、方形区に区切り植生を調査する方法をコドラート法と言う。


3・2・2 植生


 本調査では、5ヵ所の任意の方形区において植生の調査を行った。


 表9・表10・表11


3・3 帯状トランセクト法による植生調査


 八甲田大岳から北西に約4Km、田代平地区(標高約600m)には草原があり、牧畜も行われているようで高原の様子をうかがえる。草原の周囲は、森林であり、ここで、しだいに草原から森林への移り変わっていく過程において、その植生の移行を観察・調査することができる。


3・3・1 調査方法


 草原から森林への移行を調査するにあたり、ここでは、帯状トランセクト法を用いる。帯状トランセクト法とは、草原から森林の変遷区域において方形区を直線上連続的に配置し、それぞれの方形区についてコドラート法による調査同様に植生高・植被率、種ごとの優占度・群度・草丈を測定する。しかし、ここでは特に群落構成の変遷について注意しなければならない。
 本調査では、草原-森林境界面にほぼ直角に1m×1mの方形区の連なりを15mつくった。メジャーで2本の平行線をつくり、区切っていくが、注意しなければならないことは、メジャーをなるべく地面に沿わせて引くことである。ラインが、植物上を通っていては面積に誤差が生じるためである。このことは、低木群落において労力を要する。
 区切った方形区それぞれについて植生を調査する。項目はそれぞれ植生高・植被率、種ごとの優占度・群度・草丈についてである。


3・3・2 植生


 表12・図3・図4・図5・図6


図3 帯状トランセクト法による各植物の優占度





図4 帯状トランセクト法による種数の変化
(各方形区における種数を木本と草本についてプロットした。なお、チシマザサは草本にいれてある)





図5 帯状トランセクト法によるマント群落の植生高の変化





図4・図5における考察

 図4では、マント群落における種数の変化を示しているのだが、図4の示す傾向として次のことがあげられる。(しかし、すべてのマント群落について同じことが言えるかは今回の調査ではわからない。)

 i)マント群落内において種数は減少の方向にあり、特にその中で草本類の種数が減り、木本類の種数が増加しつつある。

 ii)マント群落内において種数が局所的に大きく減少、そしてある程度増加と、グラフ上では、波状の種数の変化がみられる。

 i)について説明すると、木本と草本の繁殖能力の違い、とそれに伴う環境適応能力の違いが関係すると考えられる。そのなかでは、もちろん木本が大型となりえて、森林内での高い競争力的位置を占めることができることにもとづくといえる。
 ii)については、図4においてグラフが大きくへこんだ位置に卓越した独占種の群落の存在を示していると考えられる。ここでは、表12・図3より、1回目のへこみはチシマザサ、2回目のへこみはチシマザサとレンゲツツジ、と優位種があげられる。それぞれの強い繁殖状態をしめしていたといえる。
 そして、今回のマント群落においては、総合的に森林方向に、
  ・シバを主とする草本群落
  ・チシマザサ群落
  ・レンゲツツジ-チシマザサ群落
という構造であったと考えられる。
 図5については、マント群落における植生高の変化が示されている。その変化は緩やかな曲線というよりは森林近くになって少し急に植生高が高くなっていることがわかる。




図6 帯状トランセクト法による4種の草丈の変化
(ここでは、出現回数の多い4種を抽出して、その草丈の変化をとりあげた)


チシマザサ・レンゲツツジは、森林側ほど高くなる傾向がある。ニガナ・シバスゲは、ほとんど変化せず途中でなくなるが、若干低くなっているようである。それぞれの植物の競争と、森林に向かって草本から低木類へと遷移していく状況がこの図からわかるのではないだろうか。




3.4 考察


 考察5 マント群落の意味と役割
 マント群落は、草原地帯から森林地帯へ移り変わっていく所を示し、側面からの断面を見ると、次第に高くなっていくのがわかる。草本を主とする地点から森林に向かって低木が現れ始め、亜高木、高木へと植生が変わって行くのである。この遷移地帯は、つる性植物も多くあり、森林を取り囲み覆うような形態をしている。従って、森林に対してこの遷移地帯をマント群落と呼ぶのだろう。
 マント群落の役割は、名前の通り森林を守る「マント」としての働きがあると思われる。それは、森林の側面も中とほとんど同じ環境(葉に覆われた空間)にしている点からである。もしマント群落が無かったら、風通しがよくなり乾燥して森林の湿気を好む植物は生活しにくくなることがあるだろう。マント群落にとっても、森林の存在は強風や山地では雪崩などの自然災害から守ってもらう立場にあると言える。
 しかし、マント群落は森林の主要な高木の進出地点となり得る。そして、そこではより日光を得、繁殖しようと森林とマント群落の植物が、競争もしていると言える。


4 森林(ブナ林)の植生調査


 八甲田大岳から南東に約6Km、蔦温泉周辺(標高約550m)には、美しいブナの原生林が広がっている。そのなかの一部を調査した。


4・1 調査方法
 ここでは、最終的に「植生調査票」における必要事項の記入が目的となる。
 調査は、場所の設定に始まるが、以前の調査場所の決定と同様に任意の地点によるものである。しかし、範囲が広いので起伏の多いところは調査しにくくなる。そのときは、原点の若干の移動が必要となる。調査区域は、20m×20mの正方形をとる。区域は、メジャーを3つ程用いてつくっていく。ここでも、きちんと角が直角になっているか注意しなければならない。さらにこの方形区を2つにくぎり、20m×10mの区域をつくる。
 次に「植生調査票」の各項目の調査を始める。
 方位は、先に2つに区切ったライン上の方向を調べ、傾斜は斜面の上から下に向かってその傾きを調べる。クリノメーターなどを用いる。土の湿りぐあいは、実際にさわってみて水分がどれだけ含まれているか調べる。
 植生は、高木・亜高木・低木・低木以下の草本などと高さから4つのグループに分けて、どんな植物があるか、そしてそれぞれの優占度・群度を決める。
 20m×20mの範囲では、胸高直径5cmの樹木すべてについて樹高と胸高直径を測定する。測定のまえに該当する木にチョークで印(番号など)をつける。
 前記の範囲内の20m×10mの区域ではそれぞれの樹木の様子を詳しく調べ、植生断面図と樹冠投影図をつくる。


4・2 植生


 表12・図3・図4・図5・図6


4・3 考察


 考察6 ブナの二次林はどうやってできたか
 ブナの二次林は、元はその場所はブナの原生林が極相的に存在していたのだろうが、その原生林の無くなった部分に同じ年齢のブナが一斉にはえている状態を示している。はえている木はブナで同じだが、ほぼ同じ年齢の木が独占的に林をつくっているのは、自然では特異といえる。(しかし、身の回りの林の多くが二次林である。)
 どのようにしてこのブナの二次林ができたのか考えると、まず始めはブナの原生林が存在していたことを念頭に置かなければならない。そのブナの原生林にはブナだけでなく、蔦温泉周囲でみたように高木層にはホオノキなど、亜高木層にはカエデ類、草本としてシダ類などが混在していたと考えられる。
 次に、原生林が部分的に失われたという出来事があったといえる。ここで、「人によって」ということであれば、何らかの目的をもって伐採したといえる。それ以外であれば、自然災害で原生林が破壊されたと考えられる。
 ブナを主とする木本類がなくなると、その地面上の環境をも大きく変えることになると言える。森林であったときよりさらに風通しはよくなり、直射日光が当たり、乾燥してしまうと考えられる。そうすると、暗く湿った所を好むシダ類は生活出来なくなり、そのような植物はほとんど無くなってしまっただろう。
 次に、少しぐらい乾燥してもよく、日光を好み、競争力のある草本類(イネ科植物など)がこの場所にふえていったと考えられる。低い木本もあったかもしれないが、絶対量から草原に近い状態と言える。
 そのあとに二次林となるべき(?)ブナが発芽・成長するわけだが、原生林のときに発芽して残っていたものを除いてほかは、後から種が運ばれ発芽したといえる。その場合の条件として二次林予定地と種子をつくることのできるブナ(林)が隣接していなければならない。そして、観察されたブナの二次林の場合ほとんど二次林予定地と接していたのは、ブナであったと言える。もし、ブナと同じくらいの高木で、ブナよりも競争力の強い植物と接していたら別の植生を示していたに違いない。
 こうして二次林としてのブナが成長すると、地面上の環境は原生林のときと近くなり、日光を好む草本は次第になくなっていったと考えられる。しかし、その環境(暗く湿った所)を好む植物はだいぶ以前になくなり、そこには繁殖元がないのでそのようなシダ類もない状態になった。観察されたブナの二次林は、ほぼ同年齢のブナのほかにほとんど草本も他の高木も無いそのような状態であったといえる。
 今後のそのブナの二次林について考えると、そこにはほとんどブナしかなく、ブナもある程度成長しているので、他の高木が侵入し成長する余地はほとんどないと考えられる。日陰を好む草本などについては、シダ類などは二次林の周囲からしだいに侵入してふえていくと思う。



図7 ブナ林における樹高と胸高直径の関係
(ブナ以外の高木を含む。左は片対数で示してある.)

図7より、およそ胸高直径40cm樹高20mのところで平衡に達しているようである。図中の線グラフでは、どちらの値もさらに増加するように見えるが実際は、調査地におけるほとんどのブナの限界はそこにあると考えられる。また、図より次式が求められた。


F(x)=873.5*In(x)−1120.5 (単位は、cm)


xに胸高直径を代入することによりおよその樹高F(x)が求められる。
ここで、標本数がすくないため誤差が大きいかもしれないこと、樹高と胸高直径が環境に影響されるとした場合、調査地以外では当てはまらないことの2点が問題となる。
しかし、逆に考えると、このデーターに近いものが別の場所で求められたとしたら、そこは似た環境または植生であるといえるかもしれない。


図3 胸高直径ごとの本数の変化


胸高直径が大きくなるほど本数は減ってくる。その変化は、急な減少の曲線を描くようである。0ー10cmにおいて本数がかなり少ないが、本数を数えたものは胸高直径5cm以上であるので、芽を出して数年の幼い木は含まれていない。もしそれを加えると、この区域においてかなりの数になり、グラフ上での凹みはなくなり、その変化においてなんら特異な要素が含まれているとは考えられない。



図9


5 おわりに


 今回の実習を通してさまざなことを知ることができたとおもいます。たいへん疲れましたが実際に歩いてみて本で読むより数倍良い経験ができました。これからは植物をみる視点が広がり、今まで見過ごしてきたものも注目できることと思います。
 最後に本文では触れませんでしたが、人と自然の関わりについて考えてみたいと思います。大岳では人によって破壊された湿原や高山植物をよみがえらそうとする努力を目にすることができました。自分たちも含めて登山者の心無い行動(過失も含み)によって今までゆっくりと形作られてきた植生が破壊されたようです。一番良いのは人が入らないのがよいのかもしれませんが、写真でしか目にすることのできないような自然は2つの意味で価値がないといえます。ひとつは実際に存在するが触れられない自然と、ひとつは存在しない自然の場合です。そのため今できることは、これからの破壊を防ぎ、失われた部分を元に戻すことだといえます。また、高山の植生のように華奢な自然に触れる人は、その自然についてよく知っておく義務があると感じられます。 自然環境は、自然であってそれでいて変化し、常に人と接していて自然であると思います。そのような人と自然の平衡ラインをうまく維持することがこれから未来にかけての課題といえます。


6 植物目録


 本調査において観察された植物を以下のとおり植物目録として示す。
 (ただし、『日本植物誌』大井次三郎がみつからなかったので、科・属の配列は『原色牧野植物大図鑑』北隆館に準拠し、属内は学名のアルファベット順に配列した。)

(植物目録)


7 文献


 原色牧野植物大圖鑑        北隆館
 原色牧野植物大圖鑑 続編     北隆館
 日本シダ植物生態写真集成     採集と飼育の会
 日本の野生植物 I        平凡社
 日本の野生植物 II        平凡社
 世界有用植物事典         平凡社
 日本植物ハンドブック       八坂書房
 原色日本蘚苔類図鑑        保育社
 地学事典             平凡社


 植物生態学講座1 群落の分布と環境    朝倉書店
 生物圏の科学               共立出版
 植物生態の観察と研究           東海大学出版会
 図説植物生態学              朝倉書店
 日本の重要な植物群落           環境庁


 「東北日本亜高山帯針葉樹林の類型と分布」 斎藤
                  山形大学紀要(自然科学) 第9巻 第2号
 「蔵王山硫気孔原植生の生態学的研究」 斎藤、河合、阿部
                  山形大学紀要(自然科学) 第9巻 第1号
 「八甲田山亜高山帯針葉樹林の構造」 斎藤、福田
                  山形大学紀要(自然科学) 第10巻 第1号
 「まぐさ場(秣場)の植生とまぐさ場起源の二次林」 田村
                  埼玉県立自然史博物館研究報告 第12号





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