山形応用地質,19号,91-100ページ,1999

テキスト ボックス: 山形盆地北西縁,村山市白鳥〜深沢における
活断層帯と産業廃棄物処分場問題*

川 辺 孝 幸**

 


 山市白鳥地区は,山形盆地の北西縁に位置し,最上川が蛇行形態を保ったまま山形盆地から丘陵部に流れ出る部分にあり,西側の葉山山塊に連なる大平山地から流出する小国沢川とその支流が最上川の段丘面上に流出する地点に小扇状地(以下,小国沢川扇状地または単に扇状地と呼ぶ)を形成している.この扇状地の北側の丘陵部(村山市深沢地内)に産業廃棄物処分場が建設されることに係わって,建設反対の周辺住民の運動体である白鳥の自然を守る会の依頼によって,守る会の全面協力によって実施されたトレンチ掘削を含めて,この小扇状地および周辺地域の地質学的検討をおこなった.その結果,活構造を示すいくつかの堆積現象を観察することができたので報告する.

 

地形および層序

 

 調査地域を含む山形盆地西縁部には,約1万年前の肘折パミス(宇井ほか,1973)を含む段丘礫層を切る大高根断層などの活断層を含む活構造地形が顕著に発達していることが従来からよく知られていて(第1図;藤原,1967;山野井ほか,1986;鈴木・阿子島,1987;鈴木,1988,活断層研究会,1991),山野井ほか(1986)はこの活構造をつくる新しい時期の変動を『村山変動』と呼んでいる.

 扇状地を取り巻く低山地にはおもに凝灰岩・凝灰質砂岩・凝灰角礫岩からなる海成の新第三系中新統深沢累層が分布し,低山地東縁部には砂礫層,砂層,シルト・粘土層,亜炭層などの未固結の網状河川〜後背湿地からなる沖積成の地層から構成される中部更新統の北山層(山野井ほか,1986)が分布している.これらを覆って中位2面に対比される段丘堆積層(鈴木,1988)が堆積平坦面をつくって発達し,この平坦面を開析して小国沢川の扇状地堆積物や最上川沿いの低位段丘堆積層が分布する.これらの地層は,肘折パミス起源の軽石混じりガラス質砂層およびその上位に重なる黒ボク土に覆われる.

深沢累層深沢累層(徳永,1958)は,軽石質・ガラス質火山灰を起源とする緑色の砂岩層,凝灰岩層の互層から構成されている.地層は大局的には北北東−南南西方向の伸びを示す(第2図).地層の傾斜は,処分場を挟む南北両方の東西方向の沢のデータからは,処分場の東半分をとおる延長線上では南西〜西に数10度,西半分をとおる部分では東〜南西に数10度,それぞれ傾斜していて,向斜構造をなしている.

北山層:北山層は,大局的には,深沢累層のつくる斜面にアバットするかたちで不整合に覆っているとみられるが,処分場南の油沢(山川)(第2図-Loc.1;以下,地点○と表記する)では,堰堤のある約100mの露頭欠如を挟んで,西側の西に約45°傾斜する深沢累層と,東側の逆転して西に80°〜70°傾斜する北山層が近接して分布しており,露頭欠如の部分で断層関係で接しているとみられる.北山層は,断層で接する付近では北山層の下部の地層が分布しているとみられるが,中礫からなる砂礫層からなっていて砂層とシルト層の薄層を挟み,網状河川成の層相を示している.より上位の地層が分布する城見沢では,おもにシルト層からなり,礫層および砂層,亜炭層を挟んでいる.

中位段丘堆積層およびその相当層:中位M面(鈴木,1988)を構成する堆積物およびそれに相当すると考えられる扇状地堆積物である.泥沢より東側の中位段丘面下では,層厚10m前後で,おもに中礫〜大礫大の礫層からなり,砂層およびシルト層の薄層を挟む.宮下地区の扇状地北部に残丘状に分布する扇状地性のものは,泥質な基質からなり,深澤累層起源の泥岩,砂岩,凝灰岩などの中礫〜大礫大の亜角礫を主体とし,凝灰岩の巨礫を含んでいる.

低位段丘堆積層およびその相当層:白鳥〜宮下地区東部の低位段丘の平坦面および小国沢川ぞいに分布する扇状地面をつくる堆積物からなる.宮下地区東部では,層厚が5〜8mで,おもに中礫〜大礫大の亜角〜亜円礫を主体とする礫層を主体とする地層からなり,砂層およびシルト層の薄層を挟んでいる.扇状地面下では,深沢累層起源の中礫〜大礫大の亜角〜亜円礫を主体とする掃流性(河川性)の砂質礫層および土石流性の泥質礫層を主体とし,シルト層,および砂層の薄層を挟んでいる.

 

空中写真判読

 

 調査地域には,第2図に示すようなフォトリニアメントおよび地すべり地形が観察される.

テキスト ボックス: *		堆積学研究会1999年春の研究集会で講演
	**	山形大学教育学部地学研究室
 フォトリニアメントは,低山地部では直線的な谷の連続や尾根の段差などであり,扇状地上では,扇状地地形を崩す,ある幅をもった直線的段差(地形的撓曲)を図示した.判読できたフォトリニアメントは,いずれも北北東−南南西方向の伸びを示している.第1図に示した既知の活構造の位置はこれらのフォトリニアメントと同方向を示していて,図示したフォトリニアメントのいくつかは,活構造が地表に現れた結果である可能性が高いことがわかる.また,後述のように,深沢累層の分布域に見られるフォトリニアメントの延長線上の泥沢沿いの露頭では,深沢累層を切る断層を直接観察することができた(第3図).従って,これらのフォトリニアメントのかなりの部分は,断層の運動によって,もしくは断層の発達によって差別浸食を受けたことによって形成されたかのいずれかであることがわかる.

 

 扇状地上のフォトリニアメントは,低山地部のものから連続する位置もしくはやや東側にずれて発達し,一般に下流側に張り出して湾曲している.扇状地上のある幅を持ったフォトリニアメントがいずれも活構造であるとすると,被覆層の基盤上に現れた断層の変位は被覆層に入って,断層から撓曲に変化するが,その際,撓曲の軸は地表に近づくほど断層の落ちの方向に傾いて伸び,変形の幅は未固結の地層の層厚が厚くなるに従って大きくなるからと考えられる(第4図,川辺,1990).

 地すべり地形は,比較的大規模なものは最上川に沿って,最上川に滑り込むかたちで分布している.小規模なものはフォトリニアメントに沿って分布するものが多い.ちなみに,すでに稼動が終わった最上川に面した産業廃棄物処分場は,最上川に滑り込む地すべりの冠頭部を埋めて造られている.

 

1).深沢累層に見られる地質構造

 調査地域の新第三系深沢累層は,処分場の中央部を北北東−南南西方向に伸びる向斜構造を作っている(第2図).向斜の軸は,調査地域北縁の泥沢では南にプランジしている.また,泥沢では,深沢累層は,この向斜の軸に平行な方向の複数のおもに西傾斜の断層によって切られていて,一部は逆転している部分もある.これらの断層の活動時期については,深沢累層の堆積期以降であることはわかるが,最後の活動がいつであったかは,より新しい地層が分布しないために不明である.これらの断層は前述のフォトリニアメントの延長上にあり,これらの断層が活動したためにフォトリニアメントができたのか,断層破砕帯が差別侵食を受けたためであるかどうかは不明であるが,いずれにしてもこれらの断層がフォトリニアメントの形成に関与していることは間違い無い.

2).泥沢でみられる深沢累層を切る断層群

 泥沢で見られる断層は,第3図にみられるように,幅数cm〜最大約2mの破砕帯を伴っている.破砕帯の状態は,断層ガウジを伴う断層角礫が多いが,断層角礫が風化・変質して粘土化し,一見全体が断層ガウジ状のものもある(第3-1).

3).深沢累層と北山層とを境する推定断層

処分場の南を流れる油沢(地点1)では,処分場の南から処分場前の橋の下流約100mの堰堤まで,深沢累層の凝灰質砂岩〜凝灰岩がN20°〜10°E 46°〜60°Wの西傾斜で分布している.これに対して,堰堤の下流側では,北山層のシルト層を挟む砂礫層がN24°E76°Wに西傾斜に逆転して露出している.北山層の傾斜は,約130m下流の堰堤の脇でN26°E72°Eと正常の傾斜になる.このような北山層の変形構造からは,処分場前の橋の下流約100mの堰堤付近の深沢累層と北山層との境界部には北北東−南南西方向に伸びる東落ちの断層が推定できる.この推定断層は,北山層が水平距離で少なくとも100m以上にわたって逆転〜直立していることから,北山層の堆積以降,少なくとも100m以上の東落ちの運動をおこなったと推定できる.地形的にはこの付近を推定断層と同方向のフォトリニアメントが走っており,フォトリニアメントは,この推定断層の運動が反映した可能性が高い.

4).城見沢における北山層の撓曲構造とそれを覆う段丘堆積層の堆積同時変形

 城見沢の地点2では,北山層は,下流の河床部でN28°E32°W で西に傾斜し,約20m離れた上流側の露頭では,N32°E42°EN22°E52°Eで東に傾斜している(第5図).両者の露頭の間には,両者の変形形態から,西傾斜の逆断層が想定される.上流側の露頭では,東に傾斜した北山層を不整合におおって,おもに礫層からなる段丘堆積層が発達しているが,この段丘堆積層自体もこの部分で撓曲している.不整合面は北山層の撓曲の急傾斜部で東に高度が下がっているが,不整合面とその上位の段丘堆積層の一部は北山層に発達する東落ちの小逆断層によって切られている.段丘堆積物の各層の厚さは,この撓曲部を境に東側が厚くなっており,各単層の堆積期をとおして,この東落ちの撓曲運動があったことを示している.

5).中位段丘堆積層にみられる逆断層

小国沢川扇状地の北縁付近にある地累状小丘の西縁付近(地点3)には,第6図に示すような段丘堆積層を切る逆断層が発達している.この露頭の上面は道路面として人為的に削り取られていて,肘折パミスを含む地層を切っているかどうかは不明である.

この露頭では,低角度の主断層と,それから上方に分岐する複数の派生断層からなっている.露頭の左端(西側)のものを除いて,派生断層は逆断層である.また,上盤側の礫層が派生断層の断層面に沿って上方に這い上がっていて,断層面自体が不明瞭になる.礫のインブリケーションは這い上がる礫層の上面〜断層面に平行になっている.おそらく,礫層が液状化して上方に突き上げたことによると思われる.最も西側の派生断層は,正断層になっている.

6).扇状地堆積物の堆積時変形構造

 扇状地上にみられるフォトリニアメントに沿った部分でおこなわれたトレンチ掘削(地点4)では,第7図のような変形構造が観察された.

地表下約2mまでの扇状地堆積物は,地表下50cm80cmにある厚さ1520cmの軽石の点在する火山灰質砂層直下に発達する泥質礫層の基底を境に,黒墨土を主体とする上部と,泥質礫層とシルト層を主体とする下部の2つの単元に区分できる.上部の基底に発達する軽石の点在する火山灰質砂層は,軽石や角閃石の特徴から,約10,000年前に肘折カルデラから噴出された肘折パミスの再堆積であると同定できる.したがって,上部に覆われる変形構造をなす下部の地層は,肘折パミス直下のそれよりやや古い10,000年以上前の地層になる.

液状化・流動変形は,2つの形態がみられる.一つは,下部層のトレンチ壁面下部に分布するシルト層に挟まれた砂質礫層が突き上げるかたちで変形しており,それに伴ってその上位に重なるシルト層が変形している.もう一つは,変形したシルト層の上位に重なる泥質砂礫層がブロック状にわかれて扇状地斜面の下方に移動し,その結果その上位に重なるシルト層および泥質細礫層がブロック間の隙間を埋めて落ち込む形態を示している.これら2つの変形は,特に構造の明瞭な新旧の切断関係・再変形構造は認められず,おそらく同時に形成されたものであると考えられる.これらの変形構造は,地下水位がほぼ当時の地表付近まであった条件下で地震によって強い振動を受けたために,シルト層に挟まれた砂礫層中の間隙水圧が上昇して液状化し始めると同時に,比較的強度を持った泥質砂礫層が地震動によって割れてブロック化して下方に移動し,その隙間を埋めて泥質砂礫層の上位の地層が落ち込んだと考えられる.このような砂礫層の液状化・流動化現象は,兵庫県南部地震以前にはほとんど知られていない.おそらく直下地震による震度6〜7の強振動を受けた結果であると考えられる.


 トレンチ壁面全体として,扇状地堆積物を構成するチャンネルをつくって発達する礫層のチャンネル壁の分布高度からは,堆積以降,全体的に2°〜3°東に傾斜したことが推定できる.

 


 以上のように,調査地域では,隣接地域と同様,少なくとも中部更新統の北山層堆積期以降に,北北東−南南西方向の伸びをもつ構造運動が活発に活動していたことがわかった(第8図).

これらの地層から示される構造運動と同方向の伸びをもって発達するフォトリニアメントは,これらの地質構造の反映であると考えられ,いくつかは地質構造そのものが地表に現れたものであることが確認された.また,扇状地上のフォトリニアメント付近で掘削したトレンチでは明瞭な断層自体は見つからなかったが地層が緩く傾いていることが見られることや,地点2でゆるい撓曲が見られることからすると,扇状地堆積物・段丘堆積物などの未固結堆積物が厚く発達する部分では,地下に断層があっても,その断層がそのまま地表に現れるのではなく,撓曲として現れていると推定できる.

廃棄物処分場などの構造物を造る際には,本来,ボーリングによる点の調査だけでなく踏査を含む充分で慎重な地質学的検討が必要であることは言うまでもない.しかし,この活断層帯上に建設中の処分場だけでなく,隣接する地すべりの冠頭部を埋積した既存の処分場の設置を含めて,既存の文献的調査を始め,どれだけの地質学的考慮がなされていたのであろうか.

確かに,現在の法律では,廃棄物処分場の建設に際しては,点での岩石強度の調査のみで良いことになっている.しかし,点が全体を反映しているとは限らないことは明かであり,面的な調査=踏査をおこなった結果を踏まえて判断する必要がある.貯留する物質の危険性と,それを地質学的将来にわたって安全に保管しなければならないことからすれば,最低限貯水ダムと同程度の地質学的・土木工学的検討を必ずおこなうことが法律によって制度化される必要があるのではなかろうか.

ちなみに,活構造は,将来動く可能性があるからという漠然とした確率的な問題から危険であるということだけでなく,1).断裂系に沿って地下水が滞水しているために周囲の岩石が風化・変質変質を受けて粘土化しているために地すべりを起こしやすいことに加え,2).西宮市仁川の地すべりの例をはじめ,兵庫県南部地震の際に各地でみられたように,直下地震等で強振動を受けた際に,地下水を含んだ不透水層中の断裂系の間隙が地震動によって塞がれるために,地下水が絞り上げられるかたちで断裂系から突出し,その上位にある未固結層(大阪層群,段丘堆積層,盛土層)に吹き上げて液状化させるといった危険性を持っていること,3).長野県大町市の湧水汚染のように,ひとたび汚染された水が漏出した場合,谷や尾根などの地表地形に無関係に断層破砕帯を通って,断層破砕帯沿いに広範囲に拡散する危険性をもっていることなどの問題を指摘することができる.

 

 


   辞

本調査・研究をおこなうにあったって,白鳥の自然を守る会のみなさんには,トレンチ発掘に際して掘削対象の土地を提供して掘削していただき,調査の便宜を図っていただいた.また,山形大学のネオテクトニクス,構造地質学の専門家の方々には,現地での討論を含めて助言を頂いた.大阪市立大学理学部地球学教室の熊井久雄氏には,長野県大町市における断層による汚染地下水の拡散の具体例について教えていただき資料を提供していただいた.記してお礼申し上げる.

 

 

藤原健蔵(1967)山形盆地の地形発達.地理評,40, 523-542.

活断層研究会(1991)日本の活断層,437p., 東京大学出版会.

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川辺孝幸(1999)山形盆地北西縁,村山氏宮下地区における活断層帯と扇状地堆積物.堆積学研究会1999年春の研究集会要旨集,69-72

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